フリアコという働き方

旅行に出て、その地方のきれいな景色や珍しい食べ物を食べるのも楽しみですが、様々な人たちと触れ合うのも醍醐味のひとつです。今回の旅行でも普段会うことのない方たちに会って、新鮮な感動をいただきました。

そのひとりがゲストハウスにいた女性です。若い、と言ってもたぶん30代前半だと思われるその方は、ゲストハウスに住み込みで働いている方でした。ちなみにそのゲストハウスを訪れるのは私は2度目で、前回来た時は私以外全員外国人でした。訪日外国人が消え、観光業は大変な状況だろうと予想はしていましたが、ここまでとは思っていませんでした。

その前の土地で泊まったのは、同じようにゲストハウスですが、新しくできたビルの中にある建物で、ホテルにはない広い共同キッチンやランドリーといったゲストハウスならではの設備が整備され、旅慣れた人たちが泊まっていました。小さな子どもを連れた家族はたぶん1室をファミリーで使っているのでしょう。ゲストハウスはホテルよりも機能的です。

ところがお客は私ひとりのゲストハウスは外国人が好むような畳敷き、襖といった純和風で、コロナ前ならば繁盛できていたものが、襖や広々とした作りがかえってこの季節は寒々として(実際とっても寒かった)、日本人には敬遠されたようです。ロケーションがいいので今回も選びましたが、次回はないかも。

さて、そのゲストハウスにいた女性から聞いた話です。

「私、フリーアコモデーションなんです」と仰る。

「は?タダのお部屋?」「そうです。このゲストハウスに住み込んで働く代わりに、全部タダにしてもらっています」

部屋代、光熱水費、ネット代などは全部無料で使え、代わりに夜8時から朝8時までの管理をするのだと言います。管理と言ってもお客は手間のかからない私ひとりなので、ほとんどすることはありません。

「住むところがあると言っても食費なんかはいるでしょう?」「私、働いてるんで収入ありますから」

彼女は通販会社のコールセンター業務をしていて、パソコンからかかってくる電話に出たり、メールの応対をすることで給料をもらっているとのこと。

「パソコンとネットがあればどこでもできる仕事ですから。前はマレーシアでこの仕事をしてました」

ひとしきりコロナ禍の中の外国で違法スレスレというか違法労働をしていた(させられていた)お話などを伺い、普段は知ることのできない情報をいただきました。

「でもね、私、もう来年は実家に帰るんです。ここはとても住み心地はいいんですが、やっぱり家じゃないんです。私、家に住みたくなったんです」

長い旅をして、結局家が一番いいということに気づいたという「青い鳥」のようなお話。もしかしたら前の宿で働いていた若い人たちも、同じようにフリアコだったのかもしれません。

先日、自分の周りの世界しか認めない人と会話をすることがありました。もしその人に「こういう暮らし方もある」と言ったら怒りまくって「そんなやつら、将来困ったときに生活保護になったりするんだろう!老後の暮らしに困るんだろう!」と言いそうだな。まぁ、そういうこともあるかもしれないけれど、どう暮らしても結構一寸先はコロナの世の中。やれるときにやりたいことをやってみるのもいいんじゃないかと思った旅の夜でした。