海を見ていた午後

横浜は東京からとても近くて、私は東京都横浜市と言ってもいいくらいの感じで受け止めています。近くて行きやすい分、いつでも行けるような気がするせいか、行くのはひとりではなくたいてい子どもと一緒の中華街B級グルメ旅です。

そんな横浜に住む友人から「一緒に横浜で遊ぼう」とお声がかかったのは2年ほど前。横浜で女子がふたりで行くとしたら、「どこに行きたい?」と彼女。

私にはずっと行きたかった場所がふたつあります。ひとつは青山のジャズクラブ「ブルーノート」。もうひとつは横浜にありました。

私は温泉だろうが海外だろうが、大抵の場所にはひとりで行くのですが、このふたつはどうしてもひとりでは入りづらいお店でした。

「えーと、えーと、えーと。。。ど、ど、どるふぃんに行きたい。。!」

「ドルフィン?ああ、ユーミンね」

さすが同年代。すぐにわかってくれました。

「海を見ていた午後」は、ユーミンがまだ荒井由実だった頃の曲です。おそらくこの曲にたくさんの「青春のリグレット」が詰まっている方が大勢いると思います。

ユーミンのコンサートには何度も行きました。ユーミンがコンサートの中でこの曲を歌うと、観客はそれぞれの思い出に浸り、その思い出で会場には潮風の香りすらしてきます。

横浜に行って、「山手のドルフィン」でソーダ水を注文することを夢見ている人たちがどれほどいることか。

東京に住み始め、横浜は遠くないから行こうと思い、googlemapでドルフィンを探したこともありましたが、どうにも行けない。だって、その世代のおばちゃんがひとりでドルフィンに行ってソーダ水を頼むなんてあまりにもベタすぎて、もうその場で腹かっきって死んでしまいたいくらい恥ずかしい。

だから女子がふたりで喫茶店に来ました!という感じで行ける今回はまたとないチャンス。やっと巡ってきた山手のドルフィン探訪のチャンスです。

友人が前もって調べてくれたとおり、バスに乗ってドルフィン近くのバス停で降りました。歌詞にあるように、ドルフィンはちょっと急な坂を上っていきます。

ドルフィンは2階建てで、レストランには大きな窓あり、外の景色が一望できます。ただ、港にありがちな煙を吐くコンビナートが立ち並び、曇っていたので三浦岬は見えません。ユーミンが書いた歌詞からもう44年が過ぎて、この辺りの景色も変わってしまったのでしょう。

メニューには「ドルフィンソーダ」と別の名前のソーダ水がありました。一般的にある緑色の「メロンソーダ」はこの店では「ドルフィンソーダ」という名前でした。

「どどどどるふぃん そーだ ください。。!」   言えた!(心の声)

友人は別のソーダ水を注文しました。ああ、恥ずかしい。レスカを注文するより恥ずかしい。このお店ではドルフィンソーダの注文があると、BGMに「海を見ていた午後」を流してくれます。それも恥ずかしい。

ところが落ち着いてよく周りを見た渡すと、4~5組いるグループのテーブルのほとんどにドルフィンソーダのグラスが置いてあります。

そそそそーだよねー!ここに来たらドルフィンソーダよねーーー!

友人と2時間ほど粘って(もちろんジェラートを追加オーダーしましたー!)いる間、何度「海を見ていた午後」が流れたことか。

ドルフィンソーダは緑色のシロップをソーダで薄めただけでなく、ちゃんとメロンのピューレが入っているそうで、メロンの甘い味がしました。800円もするんだからね。

建物の1階にはドルフィンのオブジェや絵画の他に、ユーミンのサインが書かれたお皿などが展示されていて、ユーミンファンにはいつまでも居たくなる場所でした。

友人のおかげでやっと叶った「山手のドルフィン探訪」。駅から離れているのでわざわざ目指して行かないといけない場所にありますが、ドルフィンはある時代に青春した、元乙女たちの聖地であることは間違いありません。