フィギュアスケートのワリエワ選手がドーピング問題で問題になっていますが、「風邪薬を摂取するのもためらう」選手からドーピング薬物が検出されたのは、もうツミでしょう。オリンピックの時に出なかったからよい、と言う話ではない。
もともと国ぐるみでドーピングを隠しをしていたから、ロシアという国名では出場できず「ROC(ロシアオリンピック委員会)」という、モヤモヤした団体名での出場です。世の中の人はROCはロシアだと読み替えていると思いますけど。
ただ、私が昨年東京パラリンピックでボランティアをした時に体験したある出来事は、選手たちにとっては同じではないのだと思わせるものがありました。
選手は本番前に練習場で練習をしています。大会会場はセキュリティも厳しく、何より選手本人は試合前ですから緊張で張りつめていますが、練習場ではそうでもない。時には笑顔を見せながら練習し、談笑したりしています。
ふと気づいたのは、首から下げているアクレディテーションカードのストラップ(ランヤード)が寂しい。大抵選手は各国の選手同士でピンバッジ(ピンズ)を交換し、それをストラップにつけています。磁石があったら体ごと吸い付くだろうよというくらい、ジャラジャラとたくさんつけている人もいます(このピンズがユニフォームの生地に引っかかるから、ボランティアの多くはウェアの糸が出ている)。
ところがロシアチームだけはストラップに何もついていない。ピンズの交換も禁止されているのかしらと、ボランティア仲間に聞いてみたところ、「ROCはピンズがないのよ。国じゃないから」とのこと。
「他の国は国がピンズを作って選手に配るの。選手はそれをあちこちの国のピンズと交換してコレクションするのよ。でもロシアが配ったのはピンズじゃなくてステッカー。ステッカーじゃね」
誰も、交換してくれないか。ステッカーじゃね。
どの国の選手も嬉しそうにピンズトレーディングをしているのに、ロシアの選手はないのか。ドーピングは選手だけのせいではないのに、かわいそうに。
私が配置された出入り口にひとりで立っていると、帰りのバスに乗る選手がぞろぞろとやってきました。「ダスビダーニャ」と言いながら手を振ってお見送り。知ってるロシア語はこれと「ハラショー」だけだ(笑)
バスに乗る人が途切れ、ぽつぽとと選手やコーチなどの関係者がやってきたのでそのたびごとに「ダスビダーニャ」と声をかけましたが、ひとり、ももから下が義足の方が松葉杖を使いながら歩いてきました。外は霧雨。バスは近くだからあまり濡れないで行けるかなと思いながら手を振ってお見送りをしましたが、ふと、彼女に私のピンズをあげたくなりました。東京の思い出になったらいいなと思いつき、後を追いました。「ちょっと待って」と言って彼女のストラップを手に取り、私のピンズを付けました。彼女は「O..O..No・・」と言いましたが、選手は英語はできません。でも、私がピンズをつけて「Good!!」と言ってポンと叩くと彼女はピンズを見て、小さく「Thank you」と。
小さくお辞儀を繰り返しながら、松葉杖をついて雨の中を歩いていきました。
バスの中でみんなに自慢してくれるといいな。国に帰って、Tokyo 2020と書かれたピンズを見て、東京に来たことを思い出してくれるといいな。