できない要求

相談員をしていて、結構多くの方が要望されることがあります。それは「私もパートで稼いでいたので、離婚のときはその分を返してほしい」という要求です。これから子どもを抱えて生きていかなければならないのだから、お金のことはとても心配だと思うのですが、残念ながらこれは通りません。

なぜ返してもらえないのかと憤る方には残酷なのですが、家庭というものは「双方が助け合って成り立つ」ものだからです。法律には同居・協力・扶助するという義務が書かれてありますが、「夫は稼いできて妻子を養う」とは書いていないのです。妻が稼いで夫を養っても別によいのです。

ただ、これをすると男性側は「ヒモ」と呼ばれるという現実もあります。妻が夫から養ってもらうのは「専業主婦」と呼ばれますが、これを男性がやろうとすると「ヒモ」と呼ばれる。

このあたりが法律と一般社会の乖離だなぁと思います。ヒモよりもちょっと軽いのは「髪結いの亭主」でしょう。昔は女性がつける職業はあまりなく、「髪結い」つまり美容師は女性が技術をつけることができる数少ない職業でした。

美容師を妻に持つと食いっぱぐれがなく、無職になっても養ってもらえるので男性側の「いいなぁ」という思いとともに「妻子を養なわないなんて男らしくない」という侮蔑の意味もありました。どちらかというと後者の方が大きかったと思います。

冒頭の話に戻りますが、本来夫婦が協力して家計を維持するものなので、妻が働いたものも家計維持に使われたわけですから、夫に返してほしいというのはとても変な話なのです。

「でも夫は自分の好き勝手なことをして趣味に使い果たし、実際の家計のほとんどは私の給料で賄っていました」という方も多いでしょう。特にモラハラの場合は多いです。ですが、いざ離婚の話になると、これはまったく認められません。夫が妻の稼いだお金で何をしても、何を買っても関係なく、家庭のために消費されたとみなされます。

だから、まじめにコツコツ頑張って倹約したり貯金したりした妻ほど離婚のときは損をします。やるせないですね。だから損の幅を少なくするよう、いろいろと考えて行動することが必要なのです。