我が母はいろいろと困った人ではありますが、料理はとても上手です。一緒にサイゼリアに行くと卓上塩を舐めて、「これはいい塩だ」と言ったりして舌は衰えておらず、いまだ健在のようです。
母の施設に行くと母は必ず「焼きおにぎり」を作ってくれています。いつぞやはその焼きおにぎりから上る煙で警報機が鳴り、大騒ぎをしていたことがありました。
スタッフの方たちは大騒ぎで「どこ!?どこ!?」と走り回っているのですが、母は知らぬ顔。「スタッフさんに行ってきた方がいいよ」というと「何でも大騒ぎをするんだから。放っときな」。
その焼きおにぎりですが、先日はまだフライパンの上で調理中でした。
私は母と一緒にキッチンに立ったことがありません。母は料理をしながら「あれをやれ、これをやっておけ」と指図をするので、他の仕事をさせられていました。
迷惑だったのは弟の配偶者で、一緒にキッチンに立たされ「あー、ダメダメ!あーだからいったこっちゃない!!」とご指導が続くので、配偶者は母と一緒に家の中にいることを避け、母のいる実家には来ず、両親が弟のいる東京へ行くと自分の実家へ逃げるようになりました。
そのような母ですので、料理をしている場面というのは背中越しにしか見たことがないのです。
その焼きおにぎりはフライパンの上で醤油の焦げたいい匂いをさせています。
「そうか!フライパンを使うんだね」
私は焼きおにぎりをコンロで焼いていたので、どうしても表面の米粒が固くなったり焦げたり、醬油をつけるとボロボロになったりしていたのですが、フライパンを使えばこれが避けられます。
握ったおにぎりをテフロン加工のフライパンに油を引かない極弱火で、何度もひっくり返しながら両面焼きます。できればマチの部分も転がしながら焼きます。極弱火のため時間がかかりますので、一度の大量作っておいて冷凍しておくのがお勧めです。ちょうどおせんべいを焼く感じですね。
きつね色になったらお醤油か、砂糖醤油、または味噌をつけてまた極弱火で焼きます。
こんなシンプルな、料理ともいえな料理ですが、母にかかると極上の焼きおにぎりになります。ご飯の握り具合、焼き加減、醤油の分量、塗るタイミングなど熟練の技の集大成がこの焼きおにぎりです。
私も今日、テフロン加工のフライパンを使って作ってみましたが、何かひとつふたつ足りない。
「愛情」なんてものではないのは確かですが。