強制執行はどうやって行うのか

こちらの続きです。

さて、本当に養育費が支払われなくなったら実際の強制執行をしますが、弁護士に依頼すると10万円ほどの費用がかかります。10万円がきびしい時は自分でやってみましょう。

弁護士がやるようなことを自分ができるのかと躊躇したら、「できなければその時に弁護士に頼めばいい」と考えましょう。「それじゃ、やったぶんだけ損なのでは」と思わないこと。やったところまでやったことは自分の身についています。きっとこれからどこかで生きることになります。

では実際の強制執行ですが、このページにやりかたが書いてあります。

https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/youikuhi-tetsuzuki/index.html

https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2021/R0310yoikuhishiharaiukerarenaikatanotameni.pdf

こちらはリーフレットです。

強制執行は債務執行ですので、するときはもよりの地方裁判所(家庭裁判所ではありません)に申し出ます。

申立書などの必要書類を地方裁判所に提出(窓口での提出でも,郵送でも可)となっていますので、遠かったら郵送しましょう。

必要な書類は↓
https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section21/huyougimu_teikikin_saiken/index.html

専門用語がいっぱい並んでいますが、わからなければ裁判所の方に電話して聞きましょう。不備があればまた追加や修正をすればいいのです。これで10万円の出費が押さえられたらしめたものじゃないですか。

養育費が払われなくなったら強制執行

よく公正証書を作ったり、離婚調停をするときに「もし養育費が払われなくなったら強制執行ができますよ」というアドバイスがあります。そうかと安心している方も多いかもしれませんが、実際はいろいろとハードルがあります。その一番高いハードルは「強制執行できるのは夫に収入があること、自営業でないこと」というハードルです。

強制執行するものは大体相手の給料なので、自営業者から強制執行しようとすると、会社の業績が悪いので払えないなどと言い出しますからこれは難しい。また給料所得者でも払わない夫の中には職を転々とする夫もいるので、どこで働いているか突き止めなければならないという関門があります。

これを考えると、本当に日本は変な国だなぁと思います。こういった債権回収を当事者である妻(あるいは夫)が個人で行わなければならないというのは先進国ではそう多くないそうです。大抵は国がいったん決まった養育費を建て替え、それを父親に税金と一緒に請求する、または夫から先に支払わせ、それを子どもへ渡すというやり方です。つまり債権回収は将来税金を納めて国を作っていく子どもたちを育てるため、国がやるものなのです。

それが日本では個人でやれという。どこで働いているかわからない場合も自分で突き止めろという。なんじゃこりゃ、です。

さて「強制執行をすればいい」と簡単に言いますが、実際の強制執行はそこまで簡単ではありません。第一段階として、もし調停で決まった養育費が払われない場合は裁判所に1本電話をして「養育費が払われないので払うように言ってほしい」と言えば何の手続きもいらず、裁判所から支払い義務者に連絡してくれます。これは簡単。

面倒くさいのはそれでも払わない時の強制執行です。

以前掲示板で笹ベアさんが「弁護士に頼むとお金がかかるので自分でやった」という書き込みがありましたので、どういうものか探してみました。

まずは裁判所のHPをじっくりと見てみる。

https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/youikuhi-tetsuzuki/index.html
養育費に関する手続き

ふむふむ。裁判所の手続きで取り決めがある(調停をやった)場合は履行勧告ですね。

この頃お気に入りの言葉

最近お気に入りになった言葉があります。

「たいていのことは 後になればみんな笑い話」

モラ夫からモラモラされても、後になればお茶を飲みながら笑い話にできます。

モラ夫にされたことはもう乗り越えているけれど、母から言われたことはまだ未消化のまま残っています。夫とは別れて勝利しているけれど、母はまだ生きていて、母はその言葉を覚えていないし、言っても反省はしないだろう。

母が死んだら、言われたいろんなことは笑い話にできるんだろうか。

選択制夫婦別姓制度への長い道のり

先日選択制夫婦別姓のシンポジウムに足を運びました。私自身は姓とは人を区別するための印ぐらいにしか考えておらず、アイデンティなどもなく、割とどうでもいいという程度の認識です。

ただ、姓を変えることで起こる面倒な手続きや、変えたことによって「〇〇家の人になった」的な思い込みや勘違いがたくさんあることは嫌だなとは思います。

特に仕事をしていると姓を変えたことをいちいち人に説明せねばならず、それが結婚によりだったらニコニコと話せますが、離婚による場合は言う方も聞く方も不穏な雰囲気がただようことになってしまいます。

実際結婚で姓を変えた時は旧姓婚姻性の相関がわかるような書類を持ち歩いていたものです。

クレジットカードや銀行口座やパスポートや今はマイナンバーカードなど、姓を変えるといろいろなものを変えなくてはならず、今まで自分が築き上げてきた実績が無くなってまいます。「鈴木は佐藤に変わりました」言っても、自分が作り上げてきたものすべては社会的には認知されません。

#それができたのはユーミンくらいじゃないだろうか

シンポジウムでは妻の姓に改正したサイボウズの青野慶久さんのことが取り上げられて、「改正するとどんなに経済的、社会的、精神的に疲弊するか」について書かれた本の紹介がありました。

この青野さんがなぜ選択制別姓の裁判を起こしたかについて書かれたページがあります。

https://note.com/change_jp/n/nf0f6ff15ae68

青野さんは強い信念や希望があってこの運動をしたわけではなく、なんとなく妻の姓にしたら大変なことだらけで、これは夫婦が同じ姓でなくてもいいのではないか、それがダメなら選択制別姓にした方がいいんじゃないだろうかと思ったそうです。

私も姓に関してはこれから変える予定はないので、それほど熱を入れて見ていたわけではないのですが、なぜ選択制別姓が裁判で否決されてしまうのかを読んでみたら、これは共同親権を進めようとする輩と同じ穴のムジナなんだと思いました。

さらに、ググってみたらこんなものが。

https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/seigan/173/yousi/yo1730602.htm

「選択的夫婦別姓の法制化反対に関する請願」

これを読んでムラムラ~!と来たのですよ。

”別姓を望む者は、家族や親族という共同体を尊重することよりも個人の嗜好(しこう)や都合を優先する思想を持っているので、この制度を導入することにより、このような個人主義的な思想を持つ者を社会や政府が公認したようなことになる。現在、家族や地域社会などの共同体の機能が損なわれ、けじめのないいい加減な結婚・離婚が増え、離婚率が上昇し、それを原因として、悲しい思いをする子供たちが増えている。”

夫婦が別姓になると、離婚が増えて子どもが悲しい思いをし、

”一体感を持つ強い絆のある家庭に、健全な心を持つ子供が育つものであり、家族がバラバラの姓であることは、家族の一体感を失う。子供の心の健全な成長のことを考えたとき、夫婦・家族が一体感を持つ同一の姓であることがいいということは言うまでもない。”

同姓でないと強い絆が作れないという。

ちなみに辻村先生の講演で場内が嘲笑と共にどよめいたのは、「夫婦同姓しかないのは現在日本とインドのヒンズー教、ジャマイカの一部だけです」でした。

夫婦の姓についてはどこの国も論議の的になっており、それぞれの国があれやこれやと方策をしていたはず。そして今はもうインドのヒンズー教とジャマイカの一部しか同姓は残っていないとのこと。

日本がうかうかしているうちに、よそ様は先に進んでいたのです。

青野さんの話にも辻村先生の話にも同じことがありました。

「政権が変わらなければ選択制夫婦別姓は進まない」

あの請願書にあるような「夫婦が同姓でないとけじめのないいい加減な結婚・離婚が増え、離婚率が上昇し」というどこの世界のどの時代の話かと思うようなことを堂々と掲げる政党が政権を握っているうちは変わらない。

インドのヒンズー教やジャマイカの一部とご一緒に、日本人は暮らさなければいけないのだなぁ。

モラ夫は個人事業主が多い

2009年に「Q&Aモラル・ハラスメント」という本を出版しましたが、その本の巻末にアンケート調査を載せました。その中で「夫の職業は?」という項目をつけました。そして分類は「公務員」「自営業」「会社員」という大雑把なものではなく、自由記述にしました。できるだけ詳しく書いてくださいとしたところ、具体的な会社名や課の名前まで書いてくださった方がいました。よほど「憎し」だったのでしょう。

そういうアンケートの取り方をしたため統計を取ることができませんでしたが、こちらの方としてはなかなか面白い回答結果となりました。

夫の職業はあらゆる職業があったのですが、目についたのは「自営業」がすごく多かったことです。これはモラ夫という人物を知れば当然のことと思います。

自営業といっても人を使うような規模ではなく、ひとり親方とか、妻とふたりでといった個人事業主の体形をとっているような人がとても多くいました。モラ夫は何しろ俺様なので、人から指図を受けるのが大嫌いなのです。

それでもデザインやITといったひとりでできるような分野ではそれなりの収入に繋がりますが、顧客とコミュニケーションをとらなければならない、営業をしなければならないようなものは俺様のモラ夫には荷が重くなります。

結局お客とケンカをして仕事がとれなかったり、地味な事務はできず、それでも「俺は悪くない、相手が悪い」と言い続けるので、お店や会社は先細っていきます。

アイディアを生かして小さなグッズをつくる会社を家族で経営していた方がいましたが、モラハラに耐えられなくなって離婚。妻は自分で会社を作りました。

元々アイディアを出すのも制作するのも事務をするのも妻だったので、顧客は新しく作った会社に移り、モラ夫の会社は倒産しました。

その後はどうなったかわかりませんが、妻の方はとても優秀な方だったので、きっとうまく会社を経営されていると思います。

自分で会社を作ると言えば聞こえはいいのですが、結局人から指図されたくない俺様ゆえの起業独立で、自分のすることはすべて正しい、悪いことは全部人のせいという自己中心的なやり方ですから、長続きも難しいだろうなと思います。

そういう人と結婚をすると、結婚も生活も人生もすべてうまくいかず、常にお金の心配ばかりしていることになります。自営業の方との結婚は会社の業績もそうですが、本人の性格もよく観察しないと仕事も家庭も全部失うことになります。

プライドが高いおじさんの話

もう70歳近い再任用のおじいさんと一緒に働いていますが(私からおじいさんと言われるのはあちらにとっても心外だとは思いますが)、この過去に栄光を持つおじいさんは本当に劣等感が強い。

劣等感が強い人は人を見下し、バカにして、些細なことに難癖をつけ、どうでもいいことを知っていると鼻高々で能書きをたれる。

こういう人は近寄らないように、鼻高々の能書きに「そうですか~」と知っていても相槌を打っておく。これが世の中をうまく渡る術であることは、40数年の勤労生活で身についています。

今年、とあるプロジェクトがあり、このおじいさんと私もプロジェクトの一員となりました。おじさんは劣等感も強いけど、かなりずれた常識の持ち主で、わけのわからない非現実的な方針を次々に打ち出してグループ全員を困惑させました。

そのプロジェクトを現実化させるためにはこの非現実的な提案は乗せられないので、「どうしましょうかねー」というリーダーの困った声に、つい口を出してしまったお人よしの私。

大体言い出しっぺがその後を全部引っかぶらなければならないのがこういう時の決まり。だから口を出さないように静かにしていたのですが、だーれも声をあげないのでつい出してしまいました。

そして結構大変なプロジェクトは予想通りほぼ私が仕切ることになり、PCは誰もできないので、PC部門も全部私がやりと、多忙を極めました。

ただ、がんばったかいがあって、プロジェクトは大成功を収め、なんだか私の評価がものすごく高くなってしまいました。

#PCできるなんて言ってなかったからね。言ったらまた仕事を押し付けられちゃうし

そしてこのプロジェクトの収支決算をZOOMで行ったのですが、会計担当はおじいさん。前もって資料が送られてきたのですが、これがWord文書。

#どこに決算報告をWordで作る人がいるんだろうか。

リーダーから「報告書はExcelを使ってください」と言われ、おじいさんは必死になって作ったか、当日ZOOMの画面ではExcelでの報告がありました。

#ナニ、1ページの簡単な報告書ですから

ところが決算数字がおかしい。前に送られてきたWord文書の数字とも突合させる数字とも合わない。

出席した全員が「数字が合っていませんね」とさわぎ出すと、「あ、わりいわりい、今直すから」と画面に映った数字を直し始めました。

Excelを使ったことのある人はご存じでしょうが、縦横に並んだ数字をざーとドラッグしてSUMを押せば合計が出る。

ところがこのおじいさん、間違った数字を一個一個直し始めたのです。

ほけーー

その昔、Excelを使えない方たちは、電卓をたたいて計算し、Excelに打ち込んだものです。今考えるとバカバカしい話ですが、そういう人が結構いたのです。

どうやらこのおじいさんもそのクチらしく、ひとつずつ数字を直している。

ZOOMの個人メッセで「ちょっと、〇〇さん、Excelできないんじゃないの?」「どうもそうみたいだね」というのが送られてくる。

できなかったらで会計はできないと言えばいいものを、できないと言えないおじいさんの性。

なんとか笑ってごまかしてその場は終わりましたが、周りから高評価をいただいている私がおもしろくないのか、ただいまおじいさんから嫌がらせを受けております(笑)まぁ、それほど長い時間接していないからいいや。

この高年齢のおじいさんたちの自己評価と実際の落差の大きさに、ある意味「すごいなー」と思っている私です。ともかくその劣等感を死ぬまでにどうにかしよう!

お歳暮は楽天の半額セールで

先日ブラックフライデーが終わったかと思ったら、楽天で半額セールが始まりました。私は毎年この半額セールで買うものがあります。


稲庭うどんのセットです。いつもお歳暮をいただくところがあり、お返しにお送りします。この半額セール中は2,850円ですが、これが終わると本当に5,700円にもどります。

12人前は少し多い気がしますが、日持ちがするし、どなたかに差し上げてもいいし、寒い冬をこれであったまって欲しいな~との思いで毎年送っています。

竹脇まりなさんのプロティンが半額になっていたので「ほぃっ」かごに入れてからレビューを見たら、あまり口コミがよくなかったので戻しました。

プロティンは味と溶けやすさがないと続かないんですよね。今後に期待です。

伊勢丹ドア(ISETAN DOOR)を試してみた

先月LINEをしていたら、画面上部に「伊勢丹ドア」という食材宅配の宣伝が出ていました。高級デパートの伊勢丹がプリゼンツする食材ってどんなんだろーと、ともかくお試しが1,980円なので、それだけでもお得!と思って購入しました。

実をいうとこの夏は暑すぎて、ほとんど料理というものをしなかった私。

その証拠に、先月のガス代がなんと1,000円ポッキリでした。お風呂は毎日ジムのスパに入って湯水のように湯水を使っているので、お風呂は1年中使いません。

そして何しろこの夏ほぼ料理をしておらず、楽天やアマゾンの格安惣菜のお取り寄せや、スーパーのお惣菜で夏を乗り切ったので、ガス代もこのお値段なのですー。

#これこれ、これがモラ夫と一緒に暮らしていない醍醐味だわ~

秋が来て、ちゃんと食欲も出てきたけれど、いつも自分で作る料理はマンネリ。

そこへ伊勢丹の1,980円ポッキリ!の広告。

https://isetandoor.mistore.jp/OtameshiTouroku.lp.trial–z_a_ex__html.htm?

このHPにある「サバのみりん干」は無くて、代わりに何か入っていました(忘れた)

一押しは[HKS]バウムクーヘン(小)

ひとり住まいでホールのバウムクーヘンの箱を開けて、堅くなる前に食べきれるかしらと思いましたが、30度に切った一片を口に入れると、なんとも言えないまろやかな芳香とバターの香り。

たぶん1ホール一気食いも可能だったけれど、こんなに美味しいものを一回で食べきるのはもったいないと翌日まで残し、2日に分けて堪能しました。

私はもう1回食べたくて、本番セットを注文し、バウムクーヘンをリピートしました。入会特典で5,500円分買うと1,000円のクーポン券がついてきたので、しっかり5,500円になるように商品を選びました。

この伊勢丹のお試しセットを友人にも教えたら、同様に「バウムクーヘンうますぎ!」の絶賛の嵐。「ポテトサラダが美味しかった!」「ハンバーグも美味しかった!」と大好評。とにかく美味しいのがいい。

この宅配セットはHPに山ほどある食品を自分でセレクトして取り寄せることが可能です。200円台や300円台のものもあり、10数点をリクエストしてお取り寄せしました。

#物価が高騰し、スーパーでちょっと買っても2千円行っちゃいますもんねー

さらに入会特典でoisixの牛乳や濃い卵は0円なので、無料期間が切れるまでいただきました。

1回の食材に4,500円は高いと思いましたが、スーパーでお惣菜を買わなかったからか、先月の食費はむしろ安くなりました。食材は2~3人前入っているし、冷凍物を多く頼んだのでそれを使ったからかもしれません。

あとは納豆とか生鮮食品は普通に買えばいい。主菜をお取り寄せ。副菜を作るということにしたら食の満足度が上がります。

週に1度「次はこれが届きます」のメールにキャンセルを入れなければいけないのが面倒くさいのですが、少し飽きるまで月1程度お取り寄せしてみようかなと思っています。

調停でモラハラを理解してもらうには

よくどのように言えば調停委員はモラハラを理解してくれるかという相談を受けますが、調停の場でモラハラ被害を受けたと話をしても、要求する婚姻費用や養育費には反映されることはないと聞いています。

被害を具体化させるためのものは離婚調停で行う慰謝料請求です。婚姻費用請求の調停で慰謝料は要求できません。慰謝料を認めてもらうのは離婚裁判です。

調停は話し合いの場なので、相手が「払う」とさえ言えば調停で慰謝料が認められますが、モラ夫が「はい、自分はモラハラをしていました」と言うわけがなく、そして調停委員が「どうやらモラハラがあったようなので慰謝料を払いなさい」と言うこともありません。

調停委員にモラハラを認定してもらったところで、相手が認めなければ慰謝料に結び付きません。どうしても慰謝料が欲しい場合は、裁判するしかありません。

謝ってほしいとか謝罪文が欲しいという方はいますが、モラ夫は口が裂けても謝罪はしません。どんなことをしてでもと仰る方も中にはいますが、大抵は「こんな所に労力とお金と時間をかけても無駄」と、こんなこととはおさらばして次のステップに向かわれます。

長く調停や裁判をすると精神的ダメージが大きく、それが体のあちこちを蝕みます。些少な慰謝料をもらったところで、一度傷んでしまった体は元にはもどらない場合もあります。

中には20年、30年と月日を重ねた方もいて、50歳を過ぎてから人生をやり直すと言っても限度はありますが、残りの30年をのびのびと暮らすために必要な体や時間を大事にした方がいい場合が多いなぁといつも思っています。

ネットの世界というもの

まだ20世紀の頃、私がはまったのはML(メーリングリスト)でした。誰かが話題をふれば、いろんな人からレスポンスがついて語り合える場所。

そこには私の周りにいるような普通の人ばかりではなく、むしろ、私が持っている一般常識を覆すような人がたくさんいました。

一番楽しかったのはWoman’s MLという、女性だけのMLでした。他のテーマのMLにも入っていたのですが、どうもオトコは理屈っぽく、何かへたなことをいうと噛みついてきて延々とバトルを仕掛けられるので苦手でした。

何より話題が「焼き芋」とか「お気に入りの旅行先」などやわらかいのがいい。私も最初はどんどん積極的に発言していったのですが、後期は他の人たちの投稿を読む方が多くなりました。まぁ、ベテランになるとそうなるものです。

その中でちょっとした出来事がありました。そのMLにはリンさんという、みんなから一目おかれている方がいました。どうやら彼女のお仕事はIT系のようで、PCに関することは特に知識が豊富でした。

ある日ある時、「はじめまして」と入ってきた新人さんがいたのですが、その新人さんが「リンさん、もしやあなたは〇〇先輩ですか?」と投稿しました。なんでもリンさんの経歴がその先輩と被るというのです。

「あれま、懐かしい名前を言ってくださったあなたは誰?」

「やっぱり〇〇先輩だったんですね!バンビです!!」と嬉しそうな返事が来て、それから先は興奮して「高校時代の〇〇先輩は頭脳明晰、学業優秀、スポーツ万能、ピアノが上手でみんなの憧れの的で」とはしゃぎまくったメールがやってきました。

「まぁまぁ、およしよバンビ。こんなところでそんな風に言われたら照れちゃうじゃない」とリンさんの余裕のお返事。

周りからは「リンさんは昔から人気者だったんですね」「そんなにもてたんですか」と儀礼的な誉め言葉が飛び交いました。

私はと言えばなにしろネットの世界に棲んで何年という時期でしたので、そんな話をまともにとるわけがない。これはリンさんの一人二役だと思っていました。

#こうやって自分で自分を褒め称えるひとり芝居をするのって、侘しいもんだなぁ

そして月日が経ち、このMLで仲良くなった人たち10人ほどがオフ会を開きました。旅館の一室に布団を敷き詰め、「あの頃は楽しかったねー」とひとしきり昔話を始めたとき、誰かが「あのリンさんの一人芝居は笑えたよね」と言い出しました。

「え?あれは一人芝居だったの?」と驚く半数。

「えーー、あれを本気にしてたのーー?あんなの嘘に決まってるじゃない」と言った残りの半分は「たまたま同じMLに高校の先輩後輩が入っていて、後輩が入ってきたとたん絶賛の嵐の投稿するってあり得ないじゃない。もし本当に先輩ならDM出して確かめるわよ」

「えーーーー!!」

世の中には人を疑うということを知らない、心のきれいな人がいるものです。その時まであの大絶賛の投稿が本当に行われていたと本気で思っていたのです。

ネットの世界には嘘も真実もごちゃまぜになってモニターに映し出されます。どこまでが本当でどこまでが嘘かわからない。「僕はイケメン3高」が歯の抜けたつるっぱげのおじさんなんて普通にあります。

ネットの世界は奇跡のような良いことも、目の前が真っ暗になるような嘘もあるということをこの20世紀の終わりにとくと体験させてもらったのがこのMLでした。

今はSNSの時代。ネットは特別なことではなく、ごく自然に生活の中にあるものになりました。実際ネットがなければ私はモラハラを知ることもなく、こうやって被害者同盟を立ち上げることもなかったでしょう。

あの時一人二役をして虚像の自分を作っていたリンさんは、今頃どこでネットをやっているのかな。リンさんは本当に女性だったのかなぁなどと、時々思い出していたりします。