友人から勧められて「小説ユーミン すべてのことはメッセージ」を読みました。
ユーミンの自叙伝的なものはいくつも読んだし、友人の語る「ユーミンって不良だったのよ」というのもとうに知っていましたから特に期待もせずに読んだのですが、意外や今まで読んできたものの中になかったものが沢山ありました。
八王子の大きな呉服店のお嬢様である由実ちゃんは、仕事で忙しい実母ではなく、姉やさん的なお手伝いさんの秀ちゃんに育てられます。冒頭はその秀ちゃんの実家での由実ちゃんの様子が語られます。
秀ちゃんが山形の実家に帰る時には「由実ちゃんも行く~~~」と言って泣くし、秀ちゃんも娘のようにかわいがっていたので、一緒に連れてきたそうです。
山形の左沢(あたらざわ)での由実ちゃんの夏休みは、たぶんたくさんの日本人が持っている原風景と同じものです。
田んぼのあぜ道を歩くと聞こえる葉のざわめきや蛙の鳴き声、小川のせせらぎ、流れに逆らって泳ぐ小魚の震える背びれと川底の不揃いな丸い小石の色合いなどは、誰もが小さな頃に体験したものです。
ユーミンと言えば大都会やリゾートといった風景が似合う人ですが、彼女の書く曲の中に、時々日本の原風景が映し出されることがあります。
ユーミンの「晩夏(ひとりの季節)」を聞く時、私が小さな頃、母の実家でいとこたちと遊びまわった風景がいつも脳裏に浮かびます。
以前この曲は秋田県横手市に行った時に書いたものだと聞いたことがありますが、横手の風景と、秀ちゃんの実家との風景が重なって、この曲が生まれたのかなと思ったりします。
小さな頃体験した原風景は、生涯生きていく中でいつもどこか心の中にあるような気がします。
この小説は秀ちゃんの実家に行った時から始まり、長い時を経て、生まれて初めてのレコード録音が終わって帰ってきたユーミンを、秀ちゃんが「由実ちゃん、何が食べたい?」と聞くところで終わります。
洗練された曲とかっこいい遊び方で常に音楽界をリードしてきたユーミンは今年50周年。その原点は秀ちゃんと歩いた浅川(八王子を流れる川)や、秀ちゃんの実家のある左沢だったのだと、この本を読んで知りました。
また、この小説の中には、ユーミンの曲を連想させるワードがTDLのミッキーのように散りばめられています。
米軍基地のそばに住んでいたマギーの家に行く時に通る「ランドリーゲイト」は「紅雀」の中にある「Laundry -Gateの思い出」だし、有名な「山手のドルフィン」も登場する。
ある女性がビルから飛び降りたという逸話は「Olive」の中の「ツバメのように」「12階のこいびと」だし、オリンピックで変わっていく東京は「未来は霧のように」だしという具合に、作者はそこかしこにユーミンの曲を隠しています。
ユーミンがプロコルハルムが大好きで、熱望し続けてジョイントコンサートを行ったのは知っていましたが、なぜにそこまでにプロコルハルムを?と不思議に思っていました。このプロコルハルムの「青い影」が作曲への道を開いた稲妻だったとは知りませんでした。
懐かしいGSや70年代の洋楽もたくさん登場し、私も「あのころにもどり」ました。読了後は同じく洋楽好きの友人にこの本を勧めました(というか、あの頃はみんなJ-Popを聞くように洋楽を聞いたものなのだよ)
「晩夏」の割には暑すぎる9月ですが、同じ年代を生きてきた方に懐かしく読んでいただける本です。
そういえば「晩夏(ひとりの季節)」はNHKが放送していた「銀河テレビ小説」の主題歌でした。嫁が来ない農家のコメディドラマ。私が家に帰るとこの「晩夏(ひとりの季節)」が流れていて、ドラマを見ていたのを思い出します。
それもまた昔懐かしい、ある年の夏の風景だったりします。