新しい保護命令の疑問点

保護命令に「精神的DV」も対象になりました。今までは身体的DVでないと認められなかったものが、2024年4月1日から対象になりました。

ちなみに保護命令の対象は↓です(出典:裁判所)

申立人への接近禁止命令

 6か月間,申立人の身辺につきまとい,又はその通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないことを命ずる保護命令

申立人への電話等禁止命令

申立人への接近禁止命令の期間中,次に掲げるいずれの行為も禁止する保護命令

  1. 面会の要求
  2. 行動を監視していると思わせるような事項を告げ,又は知り得る状態に置くこと
  3. 著しく粗野又は乱暴な言動
  4. 無言電話,又は緊急やむを得ない場合を除き,連続して,電話をかけ,ファクシミリ装置を用いて送信し,若しくは電子メールを送信すること
  5. 緊急やむを得ない場合を除き,午後10時から午前6時までの間に,電話をかけ,ファクシミリ装置を用いて送信し,又は電子メールを送信すること
  6. 汚物,動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し,又は知り得る状態に置くこと
  7. 名誉を害する事項を告げ,又は知り得る状態に置くこと
  8. 性的羞恥心を害する事項を告げ,若しくは知り得る状態に置き,又は性的羞恥心を害する文書,図画その他の物を送付し,若しくは知り得る状態に置くこと

申立人の子への接近禁止命令

 申立人への接近禁止命令の期間中,申立人の同居している子の身辺につきまとい,又はその通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないことを命ずる保護命令
※ 当該子が15歳以上のときは,子の同意がある場合に限ります。
※ 相手方が申立人と同居している子を連れ戻す疑いがあるなどの事情があり,子の身上を監護するために申立人が相手方と面会せざるを得ない事態が生じるおそれがある場合に,申立人の生命又は身体に対する危険を防止するために発せられます。

申立人の親族等への接近禁止命令

 申立人への接近禁止命令の期間中,申立人の親族その他申立人と社会生活において密接な関係を有する者(以下「親族等」という。)の身辺につきまとい,又はその通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないことを命ずる保護命令
※ 当該親族等が申立人の15歳未満の子である場合を除き,当該親族等の同意があるときに限ります(当該親族等が15歳未満又は成年被後見人である場合には,その法定代理人の同意)。
※ 相手方が親族等の住居に押し掛けて著しく粗野又は乱暴な言動を行っていることなどから,申立人がその親族等に関して相手方と面会せざるを得ない事態が生じるおそれがある場合に,申立人の生命又は身体に対する危険を防止するために発せられます。

退去命令

 2か月間,申立人と共に生活の本拠としている住居から退去すること及びその住居の付近をはいかいしてはならないことを命ずる保護命令
※ 申立人と相手方が生活の本拠を共にする場合に限ります。

 相手方が保護命令に違反すると,刑事罰(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)の制裁が加えられることになります。

これが精神的DVの場合でも適用になるのはありがたいのですが、閣議決定したあの日、DV関係者の間では「どうやって証明するのか」「医者に通院は何回通えばいいのか」など、疑問な部分のLINEが飛び交いました。

モラハラは証明が難しいです。無視、不機嫌をどう証明するのか。あるとしたら日記くらいしかないのですが、それでいいのか。夫の行動をどこから「精神的DV」と誰がどう判断するのか。

結局のところこの「誰がどう判断するのか」がいつも焦点になります。今の警察や裁判所にはDVの専門家はいませんので、その線引きを今回丸投げされたような形になり、きっと内部では頭を寄せ合っているかもしれません。

ただ、私が行政で仕事をしていた経験から言いますと、割と警察はいい線で動いていました。結構「こりゃひどいですねー」という反応をしている人がいました。ただ、その「人」にばらつきがあるのです。

適用するかしないかはその立場の人の判断。ましてや組織。担当者が適用と思っても、上司が「DVじゃない」と言えば引き下がるしかない。

その判断を個人の価値観に委ねなければ成立しないのがこの世の中です。裁判官だって価値基準がそれぞれだったりするので、だから三審制があるわけで。

実はこれまでも身体的DVがなくても精神的DVで保護命令が認められたものはあったのです。それは私が聞いても「こりゃ絶対に通るわ」というようなかなりひどい内容のものでした。

なので、このランクならたぶん大丈夫とは思うのですが、ボーダーや、人の価値基準でふらっふらなものはいったいどうなるのでしょう。

こういう時にいつも「DV Court」があればいいなと思います。Courtとまではいかないまでも、配偶者暴力センター的なもので、DVに精通した人が常勤でいるような部署があればいいなと思います。

とにかく日本はこういった人材が必要なところにお金をかけない(かけたくない)ので、いまだにモヤモヤしていて、だから「でっちあげDV」などという言葉が横行する。

このさいだから、ここをきちんとして欲しいなと思います。

やっとここまでー精神的DVが保護命令の対象になります

政府は24日、ドメスティックバイオレンス(DV)防止法改正案を閣議決定した。被害者への接近などを禁止する保護命令の対象を、暴力といった身体的DVだけでなく、言葉や態度で相手を追い詰める「精神的DV」の被害にも拡大。命令違反の罰則も強化する。施行期日は2024年4月1日。今国会での成立を目指す。

DVは近年「長時間、正座させて説教する」「相手の行動や交友関係を制限し自らの支配下に置く」など形態が多様化。内閣府によると、24時間態勢の相談窓口事業では、相談内容の約6割が精神的DVを含む。保護対象を広げることで対応の強化を狙う。

 保護命令は、裁判所が被害者の申し立てに基づき、加害者に付きまといや繰り返しの電話連絡を禁じる制度。現行法では、対象となるDV被害を、身体的暴力のほか「生命や身体に対する脅迫」に限る。

 改正案は、DV被害に「自由、名誉、財産に対する脅迫」を追加。通院を必要とするような精神的被害があれば、裁判所が保護命令を出せるようになる。

https://news.yahoo.co.jp/articles/927ef5e0ccb87f140ca0a0ebb44c9539c35f0aa0より

精神的DV(モラハラ)は今まで保護命令の対象にはなりませんでした。ですので、どれほどひどいモラハラを受けていても、相手が親の家に怒鳴り込みに来ても、始終電話をかけてきても、子どもの周りをうろついても、何の手立てもないまま黙って耐えるしかありませんでした。

保護命令を受けることができるようになりましたから、特に今最中の方々は喜ばれていることでしょう。ただ、施行が来年4月なので、これがすごく残念ですが。。。

私がモラハラ被害者同盟を作ってからちょうど20年目の時に、このような大きなサプライズがあるとは。本当に感慨深いです。

以前から精神的DVを保護命令の対象にしようと活動してくださった支援団体のみなさまや研究者、政治家の方々に深く深くお礼申し上げます。

法律ができても結局使えなかったりすることがままあったりしますので、今後の動向に注目したいと思います。

まずは今日は乾杯♪♪

養育費も婚姻費用も永遠ではありません

相談員頃に、養育費や婚姻費用の金額が決まった方には必ず言うことがありました。

「養育費も婚費も決まった金額が永遠に続くわけではありません。特に若い場合は相手は再婚する率が高いです。それも結構早く再婚します。相手に扶養家族ができるわけですから必ず養育費の減額請求を出してきます。だから、今もらっている金額がずっと続くと思わずに、もっと収入を増やす方法を考えておいてください」

これをどれくらいの方がどれほどしっかりと聞いて下さったかわかりませんが、いきなり裁判所から「養育費の減額請求」が来ても、「あ、来たか」くらいに思ってもらえたら、ダメージも少なくて済むので、このことは必ずお話していました。

今回のパブコメではとにかく養育費を確実に支払ってもらう方が共同親権よりも先だろうと書きました。養育費の話をつけたしのように扱うというのはなんなんでしょうね(怒)

相手が再婚して扶養家族が増えるたびに養育費が減額されるのはたまったものではありませんが、現実としてそういう事態は起こりえますので、少し心に止めておいていただけるといいかなと思います。

ダーウィンの言葉に深く共感する

ダーウィンと言えば進化論。また、ビーグル号で南半球を航海し、ガラパゴス諸島を訪れた経験などをもとに「種の起源」を書き上げました。

そのダーウィンの残した言葉に深く共感しました。

「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。」

この世を生き延びるには変化が必要。昔はこれでよかったことも、今では通用しないことも多い。昔はよかったと嘆息するよりも、とにかく変化に柔軟に対応することが必要です。

世の中の変化は予想を超え、速さが尋常で無くなってきています。本当に困った世の中になったもんです。

あ~あ、年をとったら友だちとお茶飲みながら日向ぼっこできた昔が恋しい。

いっそ山奥のぽつんと一軒家にでも移り住んだ方が、精神的にいいかもしれません。

ファイナルコール 共同親権のパブコメは明日が締切日

何度もしつこいようですが、法務省が集めている共同親権のパブコメの締切日は明日です。

この共同親権については詳細がまったく決まっておらず、何をどうするかまったく決まっていないまま強行してしまう可能性があります。

たとえば同意が必要だけど、相手がどこに住んでいるかわからない場合はどうするのでしょうか。子どもが緊急手術が必要だけど、相手は遠くにいるとかまったく連絡がつかない場合はどうするのでしょう。

子どもが希望の学校の試験に合格したけれど、父が反対するから進学できないという話はどうするのでしょう。

また、すでに離婚した人たちへもさかのぼって共同親権を認める可能性があるということですので、離婚が済んでいる場合も大丈夫ではありません。

いったん共同親権になってしまうと、そこからいろいろな職業が生まれ、後戻りできなくなります。実際諸外国がその状態です。日本はグズグズしていたおかげで(もしかしたら作為的だった?)共同親権にするのが遅れ、そのため安全な単独親権を守れているという(政府グッジョブ!)幸運な状態が続いています。

いったん共同親権にしてしまうと、単独親権に戻るのはとても難しいことは諸外国の例を見てもわかります。

ひとりひとりの力が必要です。

パブコメの書き方はこちらです。

もう時間のない方はとりあえずここ↓に行って、

https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=300080284&Mode=0

意見募集要領(提出先を含む)が開きますので、脇のスクロールを一番下まで持っていき、確認しましたのチェックボックスにチェックをいれるとその下の意見入力が青くなりますから、そこに

中間試案第2の1については、乙案に賛同します。共同親権には反対です。

第2の注2 重要事項の決定は反対です

第2の3の(4) 居所指定は反対です

と書き、ご自分の意見をつづってください。それだけでOKです。

最後の最後までねばりましょう!

シンママ応援映画ー「レッドシューズ」

モラハラを扱った映画「カノン」の雑賀俊朗監督が次に取り上げたのが貧困シンママボクサーが娘と一緒に暮らすためにチャンピオンを目指すという作品です。

http://surf-entertainment.com/redshoes.html

実は私はジムでボクササイズをやっているのでそれっぽい動作はできます。結構長い間やっているので今は大丈夫ですが、すごい運動量なので最初は10分がやっとでした。といってボクシングが好きなわけではありません。むしろほぼ興味がありません。

ボクシングに限らず、格闘技系のスポーツはスルーです。世の中には格闘技好きの女性がいますが(内館牧子さんとか)、とにかく全然興味がないのです。ジムのボクササイズはやたら体を動かせるのでやっているようなもので。

でも、そんな私でもこの映画のボクシングシーンには沸き立ちました。主演の朝比奈彩さん、すごいです。モデルもやられているそうなので、立ち姿はすらっとして迫力がありませんが、女子ボクサーって、こういうものなのかもしれません。

そしてこの映画の拾い物がセコンド役の市原隼人さん。もう日本アカデミー賞をあげてもいいんじゃないかと思うくらいの役になりきりです。今東京消防庁のポスターが市原さんで、地域掲示板のあちこちに貼られているので、そのたびに目がそちらに行ってしまうようになりました。

これから見る方のためにストーリーは出しませんが、ちょっと気になる点があったのでそこは書いておこうかなと思います。

yahoo映画情報に「シングルマザーの真名美(朝比奈彩)は、ある日家庭裁判所に呼び出される。女子ボクシングに熱中する彼女の経済状況が不安定で、娘の養育は義母(松下由樹)が担うべきと行政が判断したためだった」

https://movies.yahoo.co.jp/movie/385663/

と書いてあるのを見てびっくり仰天。生活困窮を理由に裁判所がいきなり親を呼びつけて監護者変更するなんて聞いたことがない。

これは↑のyahooのあらすじが間違っています。ある日突然呼びつけられたわけではなく、元々義母が監護者変更の申し立てをしていたのです。夫は病気で亡くなっていますから義母が監護者になると。このあたりの端折り方がすごいので、雑賀監督にメールで詰め寄ってしまいました、私。

そのほか「?」なところはありますが、一番「やばっ」と思ったのは予告編にある「子どもが栄養失調で保育園で倒れた」の部分。

そ、そ、それはネグレクトになるのでわ。。!子どもが栄養失調で倒れたら、保育園が児相に通報しなければならないのでわ。。!それは私でも監護者変更した方がよいと思ってしまう。

というようなびっくり部分はあるものの、ボクシングの練習シーンや試合シーンは「ロッキー」を彷彿とさせる迫力で、最後はうるっときました。

雑賀監督は世の中シングルマザーに元気になってほしい、がんばるママとママが大好きな娘の愛情を描いた作品を作りたかったそうです。

2月24日から全国60館で公開されますが、雑賀監督のご挨拶があるそうです。今のところ東京だけですが、これから増えるかもしれません。

もし監督にお会いになられましたら、「モラハラの熊谷から見ろ見ろと言われて来た」と言ってくださると、監督も私も大喜びします。

お得にみられる「ムビチケ」はこちらから。1,500円だそうです。

http://surf-entertainment.com/redshoes.html

トルコ・シリア大地震の募金先

2023年2月6日早朝にトルコとシリアで発生した大地震。犠牲者の数は3万人を超え、東日本大震災以上の死者数となりました。

あの2011に世界中から支援の手が差し伸べられていたことを、今も忘れることはできません。しかもトルコとは昔から助けたり助けられたりという深い繋がりがあります。

「海難1890」は1890年に和歌山県沖に座礁したトルコの船を地元住民が懸命に救助し、多くの人命を救ったのが発端になる実話です。それから95年後、イラン・イラク戦争で無差別攻撃になる街から脱出する飛行機を日本は手配できず、多くの民間人が死の危険にさらされている時に、自国民よりも日本人を優先にして飛行機を飛ばせてくれたのは、「あの時の恩を忘れない」としたトルコでした。

https://www.kainan1890.com/

という、とても感動するストーリーをトルコと日本は持っています。実際トルコではこの海難事件の話は学校で習うそうで、トルコに行くと日本人はとても親切にしてもらえるそうです。

そのトルコでの災害ですから、これは黙って見ているわけにはいきません。義援金は下記で受け付けています。モラハラ被害者同盟の運営資金としていつもアマゾン、楽天でお買い物をしてくださってありがとうございます。勝手ながらこのアフィリエイトから1万円をトルコ大使館に寄付させていただきます。

◆銀行名:三菱UFJ銀行
◆支店名:渋谷明治通支店(支店番号470)
◆口座種別:普通
◆口座番号:3195717
◆口座名:TURKISH EMBASSY

◆銀行名:三菱UFJ銀行
◆支店名:名古屋営業部(支店番号150)
◆口座種別:普通
◆口座番号:1273225
◆口座名:Turkish Consulate General

また、ユニセフでも募金を集めています。

https://www.unicef.or.jp/news/2023/0017.html

お返しのお返しで倍返ししましょう。

共同親権パブコメ締め切りまであと1週間

みなさま、法務省がただいま募集している共同親権に関するパブコメにはもう応募されましたでしょうか。

書き方がむずかしい、何を書いたらよいのかわからないという方は、
単独親権続行の乙案にしてくださいと書いてご自分の体験を送るだけでも大丈夫です。

モラ夫と暮らしている時にどんな理不尽なことがあったか、離婚してからどんな嫌がらせ的なことがあったか。モラ夫と接点がなくても、いつも結婚していた時に夫から浴びせられた言葉が忘れられないという方はいます。それはモラ夫があなたの脳内に残した傷です。

「忘れ物をすると夫の怒鳴り声が聞こえる」

「時間に送れそうになると、心臓がどきどきする」

「夫に似た人を見るとすーっと血の気が引く」

みんなモラハラ生活の後遺症です。何年たっても後遺症に悩まされている方は多いです。共同親権のパブコメにこういったことを書きましょう。

離婚してからもずっと連絡を取り続けて、夫と話し合い(できません!)をしながら子どもを育てる、常に自分の居場所を夫に伝えなければならないようになります。

今が歴史が変わる分岐点です。

短くてもかまいません。ぜひパブコメに応募してください。

みんなの一通一通が積み重なって、また違う世界が産まれるかもしれません。

書き方、応募先は↓

あと1週間で締め切りです。

ぜひぜひ参加しましょう!

「小説8050」から思い出すエピソード

林真理子さんの「小説8050」は、50歳のひきこもりの子どもを80歳の親が養うという、8050問題にフォーカスした小説でした。

外からみたら幸せに見える4人家族には秘密があった。それは医学部を目指していた息子が7年間部屋に引きこもっているということである、というのがこの小説のプロローグでした。

あああ、と思い出したのは遠い昔のこと。

義母がとても仲良くしていた隣家に住むご一家は家を建てて同じ市内に転居しました。遠時はまださほど手がつけられていなかった郊外に広い土地を買い、その土地が値上がりし、銅板きの大きな家に住んでいました。

妻の方は体も豪快でしたが、こういった投資的なことも豪快で、裕福な生活をしていました。ふたりの子どものうち、上の子は大層勉強のできる子で、「将来は弁護士」の期待をかけていました。

豪邸に転居してからも、義母は時々この家に招かれましたが、義母の家から少し離れた郊外にあったので、家族の中で唯一車の運転ができる私が送り迎えをしていたりしていました。

そんなある日の朝突然に「XさんとこのAちゃんが縊死(この言葉ではないですが、結構ショッキングな単語なので言葉を変えました)したって!!」と義母から電話がありました。

「え??!!」と驚いたのは、その「XさんとこのAちゃん」とは何者ぞやが??を沢山つけて頭の中を駆け巡ったからです。

仲良く行き来をさせていただいていましたが、Aちゃんという名前が出たことはほとんどないので、いったい誰が縊死したのかが一瞬わからなかったのです。

ともかく職場に半日休暇の電話を入れて、義母を車で迎えに行きXさん宅へ向かいました。いったいAちゃんはどこにいたのか、なぜXさん宅で亡くなったのかという私の疑問に義母は「たぶんあの家のどこかにいたんだろうねぇ、私は見たことはなかったけれど、来客が来ている時は出てくるなって言ってたのかもしれない」と答えました。

Aちゃんは有名私立大学を卒業後、弁護士を目指していたけれど願いはなかなか叶わず、県庁や地元マスコミなど有名企業を受験するも、

「一次は受かるんだけど、どこも面接で落ちるんだって」

「よっぽど暗かったんだろうねぇ」

司法試験を受け続けていると聞いていたけど、こんなことになるなんてと義母も顔を曇らせました。

Xさん宅に着くと子どもが縊死したとは思えないほど明るく迎えて下さり、「さぁさぁ奥へ」と案内され、「早智子さん、Aの顔を見て行ってくれる?」と言ってくださったのですが、ごめんなさい、「ひぇーーーー」と心の中で叫び、生きている時に一度も会ったことのない人の縊死顔はとても見られないと(当然口には出さず)お断りしました。

Aさんは司法試験を受け続け、疲れ果てて亡くなったのかもしれません。

「あのお宅が隣に住んでいた頃、よく『そんなことでどうするのよーーー!』というXさんの怒鳴り声が聞こえてたわ」

親の期待というプレッシャーの中、彼が選んだのは縊死でした。

Aさんのお葬式の読経で、「○○大学法科を出て」と卒業した大学名が入っていました。「お経に出身大学の名前が入ってたのは初めて聞いたわ」と友だちに言うと、「きっとお母さんが頼んだんだよ」と。

Xさん、子どもが縊死した後も、子どもの大学名を参列者に知らせたいと思ったのか。

現在受験期で、受験生がいるお宅は大変だと思います。子どもの受験に親がウロウロしてどうするとか、子どものことは子どもにやらせろとか、様々なことを言う人はいますが、私も同じ道を歩んできましたので、受験生の親がどうにかなるというのはよくわかります。私もどうにかなっていました。

私は自分の受験の時に母からひどい言葉を投げつけられたのを今も忘れません。受験生は外からどう見えようと、神経をすり減らして精一杯やっています。志望校に落ちたからといって人生が終わるわけではない(わかっていても終わりそうな気がするというのもわかります)、ここは少し冷静に、少なくとも子どもに「この言葉は墓場まで持っていく」と思うような言葉は使わないようにしたいものです。

教育費は自己満足だったかもしれない

受験シーズンになり、受験生の親御さんは目が血走り、頭の中は「もし落ちたらどうしよう」でいっぱいだと思います。

過ぎてしまえば自分もそういう状態だったなと懐かしんだりもしますが、当時は本当にどうかしていました。「受験は子どものことだから、結果は子ども次第でしょ」と達観している人もいますが、私は子どもが地方の高校だったので、「落ちたら人生真っ暗」という気持ちでした。

地方は高校名で一生が決まってしまうと言っても過言ではなく、就職やアルバイトは履歴書に書いた高校名で粗選抜をしたりします。「高校名で地頭(じあたま)がわかる」と、地方に住んでいる多くの人が思っています。地頭が悪いと物覚えが悪いし、失敗も多い。教えるのに手間がかかるということです。

入試は一発勝負。たまたま体調が悪かったり、運がなかったりして落ちた人もいるかもしれないのに、「あそこんちの子○×高校」と、お茶飲みしながらおばあさんたちは口が悪いにもほどがあるほど、噂話のネタにします。

だから地方には中学浪人がたくさんいます。中学浪人用の予備校もあります。家にお金のある家は、県外の私立をダブル受験させ、県内の高校が落ちたらそちらに進学させます。

そういうルートで東京の私立高校に進んだ友人は「高校生の時から一人暮らしなんかさせるもんじゃないですよ」と言っていました。

「子どものためとは言うけれど、結局親の見栄じゃないですか。自分の子どもがFランク高校に行っているといいたくないんでしょ。高校生活は思い出したくないほど嫌でした。かといって県内の低ランク私立高校だったらやっぱり嫌かもしれないですけどね」

私は東京の生まれ育ちではないので、いったいどういう高校の順列かわからないせいもあって、まったく関心がありません。そしてずっと住んでいた友人たちの会話の中に高校名が出ることはまずありません。

「あそこんちの子、どこの高校?」も「どこの大学?」もありません。それは住んでいる人たちのマナーとしてそういった類のプライバシーには触れないのが暗黙マナーとして行き届いているのだと思います。

地方は塾がそもそもないか少ないので、通信で勉強している子もいれば、学校が受験生に向けて行ってくれる補修授業を受けたりしています。だから東京に住んでいる人たちよりも極端に教育費は少ないです。

でもなぁ

#小さな頃から塾に通っている東京の子たちと、受ける大学は一緒じゃん

東京の子たちは「伸び切ったパンツのゴム」のようなもので、伸びるだけ伸ばされてから受験をするので、もう伸びしろがないところで受験シーズンに突入することになり、本人のモチベーションが上がらないんじゃないかなぁと思います。

「一発屋」という、本番にだけめっぽう強い子どももいます。←たぶん地頭が良い

東京の親は小さな頃から教育費、塾代にお金をかけることで、「やるだけやった」「結果はしかたがない」というしっかりとした諦めをすることへの担保として、塾代をかけている人も多いんじゃないかと思います。

私もあの時お金をかけたらよかったなーと後悔しないよう、子どもの教育費にはお金をつぎ込んだので、まったく思い残すことはありません。

お金を存分使った、自己満足です。