旅にまつわるエトセトラーその3 深夜特急

深夜特急(ミッドナイトエクスプレス)は沢木耕太郎のベストセラーです。バッグパッカーの聖書とも言われています。1986年の発売ですが、それまでの聖書は小田実の「何でも見てやろう」でした。

どちらも青年がバックパックを背負って世界中を貧乏旅行する話ですが、旅行の途中で起こる出来事や出会う人たちが生き生きと描かれ、今も色あせることはありません。

私は深夜特急が最初に出て時に買い求め、1・2巻とも夢中で読みました。2巻から3巻の間が数年空き、待ちわびて3巻目を買ったのですが、今見ると3巻がありません。仕方がないのでkindleで買いました。

今まではkindleを読むときはiPad miniを使って読んでいたのですが、たまたま出先でスマホしかなく、仕方なくスマホを使ったら、これがとても読みやすい。字が大きくて行間が広い。1画面に8行なのでめくるのが忙しいのですが、なかなか読み進まない紙の本に比べ、読んだ感があります。

1986年にこのようにして本を読むことになるとは思いませんでした。

今回深夜特急を再読して、なぜこのタイトルをつけたかを沢木耕太郎は本の冒頭に「ミッドナイト・エクスプレスとは、トルコの刑務所に入れられた外国人受刑者たちの間の隠語である。脱獄することを、ミッドナイト・エクスプレスに乗る、と言ったのだ。」と書いています。

沢木耕太郎は映画「ミッドナイト・エクスプレス」を見てこのタイトルにしたそうです。私もこの映画を最新作として映画館で見ました。麻薬を密輸しようとしてトルコの刑務所に投獄されたアメリカ人青年ビリーが、地獄のような刑務所生活から逃れるため脱獄します。

ただ、私の記憶ではよくある脱獄劇のように長期間穴を掘るとか、計画的に脱獄したわけではなく(それは企てていたけれど結局できなかった)たまたま偶然脱獄できちゃったというラストだったと思います。

〇害した刑務官のダブダブな制服を着て、まるでおしっこを我慢しているようなヨチヨチの足取りで刑務所を出ていく様が印象的でした。

沢木耕太郎は日本を脱出して世界旅行へ旅立つことをこの映画になぞらえて「深夜特急」としたのかはわかりませんが、本の冒頭に↑にあるような文章を載せているところを見ると、示唆はあると思います。

ビリーは刑務所の中で廃人になっていく仲間たちを大勢見ていました。何もしなければ自分も同じ道を歩むことになるのだろうと恐怖の日々でした。刑務所から出られるよう懇願した両親もアメリカ政府もできるだけのことをしてくれましたが、刑期は延びるばかり。深夜特急に乗ることしか道はありませんでした。

地獄のような所から自由な世界へと戻ることを深夜特急に乗るというならば、モラハラの家から避難して自由な生活を送ることも、深夜特急と同じではないでしょうか。

この映画を見て「トルコって怖い所だなー」という印象が強く、なかなか考えを改めることができなかったのですが、エルトゥールル号やイラン・イラク戦争での日本人救出などのエピソードが上書きをしてくれました。

GWでお暇がありましたら、「深夜特急」を一度読んでみませんか?(長いよー)

アマプラで見た「あんのこと」

「あんのこと」というタイトルは知っていました。若い女性が主人公だというのも知っていましたが、それ以上は知りませんでした。

アマゾンがマゾンプライム会員を1カ月無料にしてくれるというので早速ご提案に乗り、アマプラでどんな映画があるのかなとずらずらと探して、特に見たかったわけではないけれど、なんとなくポチして見始めました。

最初はすぐに収まると思っていたコロナ禍が、まさが3年も続くとは思いませんでした。コロナウィルスで亡くなった方は大勢いますが、ウィルスによるものではなく、関連死としてコロナが蔓延したことで起こった生活苦や、家族崩壊、社会不安などによって亡くなった方も大勢いました。

「あん」はそのひとりです。

子どもならば児童虐待防止法により児相の介入などがありますが、20歳を過ぎてしまうとそういった救いの手が届かなくなってしまいます。「あん」は運よく支援の手につながることができましたが、その手を再び切ったのはコロナ禍でした。

見終わってとても切なくなるお話でした。

家庭に居場所がなく、誰かと話をしたい人にBONDプロジェクトは相談の他、具体的な支援体制を整えて困った若い女性の味方になってくれる団体です。親との確執や友だち関係などで困ったら連絡をしてみてください。そいういう女の子を見たら、頼る場所はあるよと教えてあげてください。

多くの方に見て欲しい映画「あなたを抱きしめる日まで」

このところ家にテレビを置かず、そうなると当然NHKの契約もしない人が増えていますが、BSNHKでは時々掘り出し物の番組や映画を放送してくれるので、私はNHKの受信料を払い続けています。

BSNHKで1月11日に放送された「あなたを抱きしめる日まで」はそんな掘り出し物の逸品でした。

タイトルも聞いたことがないのに録画をしたのは、BSNHKが放送するからにはきっと良い作品なのだろうと思ったからです。

1時間38分という短めの映画だし、ぱぱっと見れるかなと思って先日見ました。1度見て、ネットで解説を読み、2回目を見た時に、1回目ではわからなかった布石や謎があちこちにちりばめられているのがわかり、感動が倍増しました。

この「あなたを抱きしめる日まで」というベタな日本語タイトルの作品は、2013年のアカデミー賞作品賞(他)にノミネートされています。

見るつもりだからネタバレが嫌という方はここでご退場ください。

1952年のアイルランド、18歳で行きずりの相手と関係を持ち妊娠したフィロミナは親から修道院に入れられてしまいます。修道院で出産した後は監禁され重労働をさせられ、生まれた息子とは1日1時間だけしか会わせてもらえない日々。

それでもその1時間の逢瀬をを楽しみに、修道院で一番重労働な洗濯作業をしていました。そんな娘たちが他にも10名ほど、同じように出産と労働をしていました。修道院を出るときには1,000ポンドをお礼に置いていかなければならないきまりだったからです。

その仲間のひとりの子どもがどこかに連れていかれると知り、同情していたフィロミナでしたが、その子と一緒にフィロミナの息子も連れていかれてしまいました。

2階の窓から息子の名を叫ぶフィロミナ。それが息子(アンソニー)との最後でした。

それから50年後。1日も息子のことを忘れたことがなかったフィロミナは、その後に生まれた娘に「あなたには兄がいる」と打ち明けました。

その娘はジャーナリストのマーティンに「ジャーナリストならその子どもを探せるのではないか」と頼みます。

英国の放送局BBCを納得がいかない理由でクビになったマーティンは最初は断りますが、編集部にかけあってこのストーリーを記事にすることを約束し、取材費を取り付け、別れた息子を彼女と一緒に探しをします。

「あの子はどうやって暮らしているのか。ホームレスになっているのでは、ベトナム戦争で手足を失っているのでは」と息子の身の上を心配してたフィロミナでしたが、成長した息子は意外な立場にいて。。

というのがこの映画のあらすじなのですが、これが実話だというのだから驚きです。まさに「事実は小説より奇なり」を地でいくような意外な結末。

https://amzn.to/3vNNbBo

映画のマーティンは実在のジャーナリストで、この話を出版したところベストセラーになりました。ただ、映画はフィロミナとマーティンが息子を探すことに焦点をあてているのに対し、原作は息子(アンソニーがマイケルに変名。実在の人物)が共和党の首席法律顧問まで出世しながらも、ゲイであることに苦しんでいたことが焦点となっています(らしい)

フィロミナとマーティンのふたりが掛け合い漫才のようなセリフを応酬しながら真実をつきとめていき、最後はあり得ない場所にたどりつくというラストはまるでミステリーのようです。

息子はすでに亡くなり、残っていたビデオに映っている息子の成長記録に微笑みを浮かべながら見つめるフィロミナの眼差しにはもううるうる。

ともかく1度ではよくわからない部分も2度見ると「ああ、これだったんだ」と気づけるので、ぜひどこかで2度ご覧になってください。