先日友人と会ったらなにか元気がありません。60歳で定年退職し、それからどうしようかと思っていたら、はからずも「うちに来ない?」と誘ってくれた方がいたそうで、喜び勇んで再就職しました。
収入はアップで会社も問題ない、誰が聞いても「よかったね」と言ってくれる職場でした。「問題は人間関係かもね」とお茶をしながら話をしたのですが、1年経って話を聞いたらその人間関係が問題でした。
仕事はほぼリモートで週1回行けばいいだけ。与えられた仕事を個室で行い、ちょちょっと話をして修正して帰るだけ。その話をする人もとてもいい方で、何の文句も言わないでねぎらってくれるそう。
「1年間務めたけど、1度も文句がないんだよ。1度もない」
「それってあなたが優秀だからでしょう?いいんじゃない?」
「1年間に1度もないって変だろう?そもそも他の人との生の交流がない。会議は全部ZOOM。会社に行ってもみんなリモートだから人がいない。1年間誰とも生で話したことがない」
コロナになってリモートが推奨され、自宅で仕事ができるようになり、「通勤地獄が無くなった」と喜んでいた人は大勢いました。誰にもじゃまをされず仕事ができてプライベートな時間を過ごせるはずでした。
ところが同僚とまったくZOOM会議以外で顔を合わせることもなく、通勤もしない。子どもがいなくなった家で妻とふたりだけ。家を出る必要がない。お連れ合いの方もあまり外に出たがらない方だそうで、夫婦で家にこもりっきり。
「ジムにでも行ったら?」
「とにかく何の気力もない。意欲がわかない。旅行にも行きたくない。コンサートにも映画も見たくない。飲み会もなければ歓迎会すらなかった。こんなんでいいのか」
まるでうつ病患者のように生気がありませんでした。仕事場に行くというだけで運動になるし、同僚との会話は嫌なことも多いけど、それなりに刺激的だったのだと思います。その「他から得る刺激」が無くなるとこうも覇気がなくなるものなのか。
大昔、未来の世界を描いた漫画や映画がありましたが、宇宙服は着ていないけれど、テレビ電話は普通になり、チンと音がして料理が出てくる家電はどこの家にもあるようになりました。でも人と人が生でまったくふれあわなくなると、こういうことになるのかと思いました。
人間関係は面倒くさいし、嫌なことも多いけど、たぶん脳に新鮮な刺激を与え続け、それによって生きがいとか新しいことを考える力になるのかもしれません。山奥にポツンとひとりで生活している人はいますが、あれはあれで自然との共存。都会の孤独とは違う。
誰とも話をしなくなり、家の中で仕事をして人との関わりが無くなった世界は、とても辛そうでした。